2017年の公開以来、今なお多くの人の心を捉えて離さない映画「シェイプ・オブ・ウォーター」。
第90回アカデミー賞で作品賞を含む4部門を受賞した本作は、単なる「怪物と人間の恋物語」ではありません。
今回は、この映画がなぜこれほどまでに美しく、そして切ないのか、その魅力をいろんな視点から紐解いていきます!
「言葉」を必要としない、魂の共鳴
主人公のイライザは、発話障害があり言葉を話すことができません。そして、秘密研究所に運び込まれた「彼(不思議な生き物)」もまた、人間の言葉を持ちません。
二人が心を通わせるのは、言葉ではなく「音楽」「ゆで卵」「手話」といった、より根源的なコミュニケーションです。
「彼は私を欠陥品だと思わない。ありのままの私を見てくれる」
このイライザの言葉(手話)に象徴されるように、社会的属性や外見をすべて削ぎ落とした先にある「魂の形」が一致したとき、そこに真実の愛が生まれることを本作は教えてくれます。
徹底的に計算された「色」の演出
デル・トロ監督は、視覚的なストーリーテリングの天才です。本作では、言葉が少ない分、色の使い分けが物語の感情を雄弁に物語っています。
| 色 | 象徴するもの | 劇中での使われ方 |
| グリーン | 日常、抑圧、未来(偽り) | 研究施設の壁、イライザの制服/私服、カチューシャ、ゼリー、車 |
| ブルー | 水、神秘、安らぎ | バスの中の窓、バスルームの水、「彼」の光 |
| レッド | 情熱、愛、生命力 | イライザの靴、カチューシャ、映画館の椅子 |
物語が進むにつれ、イライザの身の回りに「赤」が増えていく変化に注目すると、彼女の心が愛によって解放されていく様子がより鮮明に伝わってきます。
「怪物」は誰なのか?
本作の舞台は1962年、冷戦下のアメリカ。社会にはびこる差別や分断が色濃く描かれています。
- 声を持たない女性(イライザ)
- 同性愛者の老人(ジャイルズ)
- 黒人の女性(ゼルダ)
当時の社会において「マイノリティ」とされていた彼らが、半魚人の「彼」を救おうと奮闘します。
一方で、完璧なエリートに見えるエステート管理官・ストリックランドこそが、その内面にもっとも醜い怪物性を宿しているという対比は、現代社会への鋭い風刺でもあります。
【考察】イライザと彼は何者だったのか?イライザの首の傷や、ゆで卵の意味は?

映画のラスト、水中で抱き合う二人を見て「彼女も元々こちら側の存在だったのではないか?」と感じた人は多いはずです。なぜ、種族を超えた愛が可能だったのか?色々な角度から考察します!
1. イライザ人魚説:彼女は元々人間ではなかった?
最も有力な説は、「イライザはかつて彼と同じ種族(あるいはそのハーフ)だった」というものです。その根拠として、劇中には多くの伏線が散りばめられています。
- 首の傷跡: 孤児だった彼女が川辺で見つかった時にあったとされる3本の傷跡。ラストシーンで、その傷が「エラ」として機能する描写は、彼女が本来持っていた性質の覚醒を意味しているようです。
- 水への異常な親和性: 作中では彼女がバスタブで過ごす時間を大切にする姿が度々描かれており、これは本能が水を求めていたことを示していると言えます。
- 声が出ない理由: 人間の言葉を話せないのは、彼女の喉のつくりが本来「水中用」だったからではないか、と推測できます。童話の人魚姫も陸に上がる際に声を失っています。
2. 彼は「神」だった説:アマゾンで崇められた理由
半魚人と呼ばれる「彼」の正体についても興味深い視点があります。
「南米のアマゾンで、現地の人々に神として崇められていた」
ストリックランドが語るこの背景は、彼が単なる「珍しい生物」ではなく、超自然的な力を持つ存在であることを示しています。
・ハゲていたジャイルズの髪を再生させる
・瀕死の重傷を負ったイライザを蘇生させる
これらは単なる治癒能力を超えた、生命の根源に触れる「神性」を感じさせます。彼は「魚人」という未確認生物ではなく、文字通り「水の神」そのものだったとする説もあります。
3.ゆで卵の意味は?

冒頭もイライザがゆで卵を作っているシーンから始まり、初めての「彼」とのコミュニケーションでもゆで卵は重要な役割を果たしています。物語において「ゆで卵」はどんな意味を持っているのでしょうか?
①言葉を超えた「最初の共通言語」
イライザと彼は、どちらも人間の言葉を話せません。そんな二人が最初に行ったコミュニケーションが、この「ゆで卵を差し出す」という行為でした。
理屈や言葉ではなく、「おいしいものを分け合ってお腹を満たす」という本能的な感覚を共有することで、種族の壁を一瞬で飛び越えます。
②「殻をむく」という自己開示のプロセス
ゆで卵を食べるには、硬い殻をむかなければなりません。これは二人の心の距離が縮まっていくプロセスを描写しているとも推測できます。
剥き出しの卵は柔らかく傷つきやすい。イライザが殻を剥いて彼に差し出す行為は「自分の本音・核となる部分をさらけだし、差し出す」というメタファーであると言えます。
まとめ:それでもやっぱり感じるのは「愛の美しさ」
結局のところ、イライザが「人間になった魚」なのか「魚に戻った人間」なのか、明確な答えは示されません。
物語には他にも多くの謎が残されていて、すべてがはっきり説明されるわけではありません。
それでも映画を観終えたあとに強く残るのは、「愛の美しさ」です。
答えが用意されていないからこそ、観る人それぞれの経験や感情が重なり、この映画は静かに「愛の美しさ」を伝えてくれるのだと思います。タイトルの「シェイプ・オブ・ウォーター」が示す通り、水には決まった形がなく、混ざり合えば境界線は消えてしまいます。
二人が何者であるかという定義すら無意味になるほど、深く、形のない愛に溶けていった。それこそが、デル・トロ監督が描きたかった究極の救いだったのかもしれません。
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